近年、多くの企業がGoogle検索に表示される自社の評判情報を気にしています。そこには自社の商品・サービスや企業そのものの信用を揺るがすネガティブな情報をユーザーが見るリスクがあるからです。
特に、Googleの検索結果の上のほうに表示される地図検索の部分に表示されるGoogleレビューの内容に神経を尖らせている企業が増えています。それだけではなく、地図検索の情報を見るユーザーが多いため、そこの上位に表示されるための取り組みであるMEO(マップエンジン最適化)に強い関心を持つようになっています。
Googleの地図検索で上位表示するための対策であるMEOの本質は、正確な企業の情報をGoogleが事業者に提供する「Googleビジネスプロフィール」というサービスに登録し、そこに最新のコンテンツを投稿し、良い口コミを投稿してもらうことです。
しかし、正確な企業情報の登録や最新のコンテンツ投稿は多くの企業が行っています。どこで競合他社と差をつけられるのかというと、それはいかにたくさんの良い口コミを顧客に投稿してもらうかという点です。この点が競合他社よりも優れていれば安定的に地図検索で上位表示が可能になります。
目次
MEO対策の本質
ただし、これは単純に口コミ投稿の数を増やせば良いという単純なものではありません。増やさなくてはならないのは自社の商品・サービスに満足した顧客による口コミ投稿の数です。つまり、自社の商品・サービスに満足する顧客を増やすということです。これはMEOというレベルよりも深い、ビジネス活動の本質にかかわる課題です。
実際に、数百、数千の口コミ投稿を力技で集めただけの企業は地図検索で上位表示されてはいません。評価が高い(星印の数が多い)口コミを集める必要があります。同時に、評価の低い口コミが投稿されないような企業努力をする必要があるのです。これがMEO対策の本質です。
Googleが多くの洗練された技術とマンパワーによって不正な口コミを見抜き、評価対象から外します。時には順位を降格したり、ビジネスプロフィールのアカウントを停止することすらあります。Googleの口コミ対策は単なる数の論理による人気投票ではなく、どれだけ企業が顧客に良質な商品・サービスを提供しているのかを評価するコンバージョン後の結果の評価なのです。
こうした状況の中、企業はオンライン上での自社の評判を積極的に管理する必要に迫られるようになりました。このオンライン上での自社の評判を積極的に管理する取り組みは今日、「オンライン評判管理」と呼ばれるようになり米国を始め多くの国で実践されるようになりました。
オンライン評判管理とは?
「オンライン評判管理」(Online Reputation Management:ORM)とは、企業や個人がインターネット上での自身の評価やイメージを管理、改善し、肯定的な印象を強化するための活動を指します。インターネットが人々にとって主要な情報源となった今日では、オンラインでの評判は企業の成功を左右する非常に重要な要素です。
オンライン評判管理が対象とするプラットフォームには主に次のようなものがあります。
1. Googleビジネスプロフィール
2. YouTube
3. SNS
4. ポータルサイト
5. オンラインショッピングモール
6. 比較・口コミ・ランキングサイト
7. ブログ
8. アフィリエイトサイト
9. Google検索のキーワードサジェスト
10. Google検索の検索結果
これらのプラットフォーム上でが必要とされます。
《オンライン評判管理の成功に必要なプロセス》
① モニタリング
② 分析
③ 戦略策定
④ 実行
⑤ 評価
① モニタリング
自社の商品・サービスについてオンラインで何が言われているかを追跡するプロセスです。「モニタリング」(monitoring)とは、監視、観察、観測を意味し、対象の状態を継続または定期的に観察し、記録することを指します。
これには、ソーシャルメディア(Facebook、Twitter、Instagram、YouTube、Yahoo!知恵袋等)、ブログ、ニュースサイト、比較・口コミ・ランキングサイトなど、さまざまなオンラインサービスの情報が含まれます。これらすべての情報源を手動で追跡することは非常に時間がかかるため、専用のツール(GoogleアラートやSocial Insightなど)を使用してこのプロセスを自動化している企業もあります。
「Googleアラート」とは、情報を集めたいキーワードを含む情報がインターネット上に公開されたときに、メールで教えてくれるサービスのことです。
例えば、Googleアラートに「SEO」というキーワードを登録すると、SEOに関する最新の情報をGoogleのクローラーが収集して検索結果に表示されるようにしたら、その日のうちにメールで知らせてくれる便利なサービスです。「Social Insight」とは、SNS上の口コミなどの分析からの競合他社との比較、炎上対策、複数のSNSでの投稿管理やキャンペーン管理ができる有料のツールです。
② 分析
モニタリングで収集した情報を分析することで、自社の商品・サービスに関するオンラインでの評判を理解するための材料を得ることができます。収集した情報の分析には、感情分析(ポジティブ、ニュートラル、ネガティブな意見の識別)、トレンドの特定(ある期間にわたって意見がどのように変化したか)、およびトピック分析(どのトピックが最も頻繁に話題になるか)などが含まれます。
③ 戦略策定
分析の結果を基に、オンラインでの評判を改善するための具体的なアクションプランを決めます。アクションには次のようなものがあります。
(1)ネガティブなフィードバックへの対応
カスタマーサービスの改善、製品の改良などに役立てます。
(2)ポジティブなフィードバックの強化
成功事例ページやお客様の声ページのコンテンツとして活用します。
(3)新しいコンテンツの作成
ブログ記事、ソーシャルメディア投稿、プレスリリース記事などを作成するときに参考にします。
④ 実行
戦略策定のプロセスで決めたアクションプランを実行する必要があります。この段階では、前段階で策定した戦略をさらに具体的な作業として落とし込み順序立てて実行します。
例えば、ネガティブな意見へのアクションプランを策定した場合、「ネガティブなレビューが投稿された際には24時間以内に回答する」や、「カスタマーサービスチームを訓練して顧客の問題解決を支援する」など具体的な行動をとります。
また、ポジティブな意見の増強策は、「顧客からの好評価をSNSで共有する」や、「優れたカスタマーサービスを提供したスタッフを内部でも、外部でも表彰する」など具体的な行動に落とし込みます。
⑤ 評価
戦略の実行が完了した後は、その結果を評価しましょう。評価の目的は二つあります。一つは戦略が成功したかどうかを判断すること、もう一つは成功した場合は何がうまくいったのか、失敗した場合は何が問題だったのかを理解して、アクションプランを改善するためです。
評価の方法はさまざまですが、KPIを設定することが一般的です。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指標」と呼ばれる経営指標です。
オンライン評判管理のKPIとしてはウェブサイトへの訪問者数、ソーシャルメディアのフォロワー数、オンラインレビューの評価、メディアで取り上げられたか等が指標としてよく用いられます。
例えば、ソーシャルメディアでの積極的な情報発信を行った場合、その結果としてフォロワー数が増えたか、投稿のエンゲージメントが向上したかなどを見ることで、その戦略の効果を評価することができます。
また、ネガティブなレビューへの迅速な対応を行った場合、その結果としてネガティブなレビューの数や影響が減少したか、顧客満足度が改善したかなどを確認することで、その戦略の効果を評価することができます。また、顧客から直接フィードバックを得ることもあります。これにより、戦略の結果、顧客体験がどのように変わったかを直接知ることができます。
この評価プロセスによって得られたデータとフィードバックは、次の戦略策定に役立てることができます。オンライン評判管理は継続的なプロセスであり、新たに得た知識を基に戦略を更新して、改善します。
それではオンライン評判管理の対象となる各プラットフォーム別の対策を見ていきましょう。
1. Googleビジネスプロフィール
検索エンジンの中でも最も利用率が高いGoogle検索や、地図アプリとしても最も利用率が高いGoogleマップに表示される口コミ情報は企業、特に地域密着型の来店型ビジネスの業績に大きな影響を与えます。Googleマップの利用規約をよく理解して、違反になる行為を避け、Googleが推奨する形でレビューを集めることが求められます。
ポジティブなレビューが投稿されたときは丁寧にお礼の返信をしましょう。ユーザーがレビューを投稿するのには一定の手間がかかります。そのためユーザーは自分が手間をかけて投稿したレビューに企業から返信されるとユーザーの企業に対するポジティブなイメージが強化されます。そしてリピート購入や知人や友人に商品・サービスの口コミをしてくれる可能性が増します。一方、ネガティブなレビューが投稿された場合は、企業には冷静な対応が求められます。
2. YouTube
Googleが運営する動画共有プラットフォームのYouTubeにもユーザーがコメントを投稿できます。ただし、チャンネルに投稿している動画の数が少ない場合や人気が全く無い動画はユーザーに見られることがほとんど無いためコメントが投稿されることはほとんどありません。
投稿した動画の再生回数を増やすにはチャンネル登録者を増やすこと、動画にいいねを押してもらうこと、動画を保存してもらうこと等が有効です。またコメントが投稿されるほど多くのユーザーの目に触れるようになり再生回数が増える傾向があります。そのため投稿した動画は誰でもコメントを投稿できるように設定することが重要です。
3. SNS
SNSも特にオンライン評判管理が重要な領域です。SNS上ではユーザーが自由に意見を表現し、その情報が瞬時に広まるため、適切な管理が必要です。主要なSNSであるX(旧Twitter)、Facebook、Instagram等でのオンライン評判管理には次の点に留意すべきです。
(1)定期的な投稿
(2)モニタリング
(3)迅速な対応
(4)透明性の確保
(5)ネガティブな投稿への適切な対応
多くの企業がSNSの運営を躊躇しています。その理由の1つは「炎上」を恐れているからです。「炎上」とは、企業がコンテンツを投稿したことにより、何らかの論争や批判的な意見がSNS上で広まり、大量のネガティブな反応や批判が集まる現象を指します。企業がSNSで炎上する典型的なケースとしては、次のようなものがあります:
(1)企業の不適切な発言や行為
(2)社員の不適切な発言や行為
(3)誤解や偽情報に基づく炎上
SNSの炎上は、企業のブランドイメージや評価を著しく下げる可能性があります。特に現代では、消費者が企業や商品を選ぶ際にSNS上の情報を重視する傾向があるため、SNSの炎上は直接的にビジネスへの影響を及ぼす可能性があります。
4. ポータルサイト
食べログ、エキテン、トリップアドバイザー等のポータルサイトでもオンライン評判管理は重要です。
5. オンラインショッピングモール
オンラインショッピングモールに出店している企業にとってもオンライン評判管理は重要です。多くのユーザーが商品の購入前に商品の品質や販売者の信用をチェックしようとするからです。
6. 比較・口コミ・ランキングサイト
比較サイト、口コミサイト、ランキングサイトは、消費者が商品・サービスを選ぶ際に重要な参考情報を提供する場所です。そのため、これらのサイトにおける企業のオンライン評判管理も非常に重要になります。
比較サイト、口コミサイト、ランキングサイトで自社や自社の商品・サービスについてどのように評価されているかを定期的にモニタリングしましょう。そしてネガティブなレビューを発見したら商品・サービスの改善すべき点を読み取り、改善に役立てましょう。
《比較・口コミ・ランキングサイトに投稿されたレビュー例》
改善後は、それらのサイトの運営者に改善した旨を伝え、感謝の意を伝えましょう。それによりサイト運営者と良好な関係を構築することが可能になります。
比較サイトやランキングサイトでは、他社との直接的な比較が行われます。そのため、フェアな競争を維持し、誤った情報や不適切な比較に対しては適切に対応することが重要です。もしも自社の商品・サービスが不当に低く評価されているコンテンツを発見したら、冷静にそのことをそれらのサイト運営者に伝え、どこがどのように間違っているのかを丁寧に根気強く伝えて訂正を依頼しましょう。ただし依頼するときの姿勢としては、コンテンツを訂正するかどうかはあくまで運営側が判断することだという点を伝え運営側の編集権を尊重する態度を示すべきです。
7. ブログ
個人や他の企業が運営するブログに自社またはその商品・サービスに対してネガティブな記事が投稿された場合、その対応には慎重さが求められます。対応が適切であれば、ブランドに対する良い評価を保つことが可能です。
ネガティブな記事を見つけたときは、直感的に反論したくなるかもしれませんが、冷静さを保つことが大切です。記事の内容を冷静に評価し、対応する最善の策を練りましょう。
《ブログに投稿された新型車の感想を伝える記事》
ネガティブな記事を書いたブログ運営者と直接コンタクトを取ることも有効な手段です。その際は、非難や攻撃的な態度ではなく、相手への理解の気持ちと尊重の姿勢をもってアプローチしましょう。誤解や間違った情報があれば、その事実を丁寧に説明し、訂正を依頼しましょう。
必要に応じて、自社のブログやSNSでパブリックな(公開された)反応を示すことも検討しましょう。その際は、客観的な事実を述べ、誤解を解くことに焦点を当て、攻撃的な態度を避けなくてはなりません。
長期的には、自社のオンライン評判管理の取り組みを強化することが重要です。自社のブランドイメージを明確に示し、信頼できる情報を提供することで、ネガティブな内容の記事が投稿される可能性を減らすことができます。
8. アフィリエイトサイト
アフィリエイターが自社の商品やサービスについてネガティブな記事を書いている場合も、その対応には慎重さが要求されます。アフィリエイターは一般に商品・サービスの使用経験に基づいてコンテンツを作成し、その視点が読者や視聴者に影響を与えます。
《温泉を紹介するアフィリエイトサイトの記事例》
アフィリエイターが自社についてどのように言及しているかを定期的にモニタリングしましょう。特に、重要な自社の商品・サービスについて多くの情報を提供している影響力のあるアフィリエイター、いわゆるインフルエンサーが運営するサイトには注意を払うべきです。「インフルエンサー」(influencer)とは、人々の思考や行動に大きな影響を与える人物のことを指します。
ネガティブな記事やレビューが書かれた場合、その内容が妥当であれば、それは商品・サービスを改善するための重要な手がかりになります。
しかし、その内容が正確なものでない場合は、ネガティブな記事を書いたアフィリエイターと直接コンタクトを取ることが有効な場合があります。その際は、意見・批判に感謝し、記事で提起された問題についての追加情報や説明を提供しましょう。その説明内容が合理的で、説明する態度が真摯なものであれば記事内容を変更、または削除してくれる可能性が生まれます。
長期的には、アフィリエイトプログラム自体を見直すことも重要です。アフィリエイターが自社の製品やサービスについてより肯定的に書くために、必要なサポートや情報、動機づけを提供しているASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)を選びましょう。
9. Google検索のキーワードサジェスト
企業が近年苦労している問題の1つに「キーワードサジェストに不本意な言葉が表示される」という問題があります。こうした問題にもスピーディーに、そして適切に対応する必要があります。
10. Google検索の検索結果
もう一つ、企業を悩ます風評被害の問題があります。それは利用率がとても高いGoogleやその検索エンジンを使用するYahoo!JAPANの検索結果に自社に対してネガティブな情報を記載しているサイトやブログが表示されるという問題です。
以上がオンライン評判管理の意味と具体的な対応策です。自社のこと、その大切な商品・サービスを否定するようなネガティブなレビューは見たくもありませんし、見つけ次第、運営側に削除してもらいたいのが人情です。
しかし、どのプラットフォームに投稿されたレビューや評価に対しても真摯に受け止めて業務や商品・サービスの品質改善に役立てる姿勢が企業に求められます。
つまり、オンライン評判管理は単なるテクニカルな問題ではなく、企業が次のステップに飛躍するための自己改善のチャンスを提供する重要なフィードバックだと認識して取り組むべき課題なのです。
また、誹謗中傷をされる原因でよくあるのが、商品・サービスの詳細の透明化を怠ったり、傲慢な発言や倫理的・道徳的に問題のある態度を示すことや、コンプライアンス(法令遵守)上の問題を生む行動などがあります。普段からの態度を内省して、謙虚な態度を持つことを心がけ、誹謗中傷されにくい企業体質を作る努力が求められます。